「圧倒的に」勝つために 羽生結弦の戦略眼。オタク的推測

まず前置きを。

この記事はNNNドキュメントが放送されて割とすぐに書きはじめた物だったのですが、資料を整えるのに時間をくってしまい、今頃出すハメになってしまいました。亀感も今更感もパネェですが、折角頑張って書いたので、一応おいておきます。

 

戦術レベルにおける偶然は、戦略レベルにおける必然の、余光の破片であるにすぎない

田中芳樹「銀河英雄伝説」

 

まず、「戦略」という言葉について。

『戦争に勝つための総合的・長期的な計略』

そして「戦術」の方は、

『戦いに勝つための個々の具体的な方法』

参照:https://dictionary.goo.ne.jp/jn/127708/meaning/m0u/

フィギュアスケートで、戦略・戦術になりそうなものは

  • 選曲
  • 振り付け
  • 衣装
  • 他の選手達の研究
  • ジャンプやスピンなど、技術的な構成
  • そのシーズンの最も力を発揮する試合、所謂「ピーク」をどこにもってくるか
  • そこに至るまでの試合をどのように経過するか、
  • 身体・精神のケアをどのようにするか
  • 演技中に失敗したときのリカバリー

などが考えられますが、どれがどっちに該当するかはなかなか一概にいえないところがありますねぇ。

私は以前、4lzは福音か悪魔のささやきかという記事で、今シーズンからの4lz投入は無謀という内容を書きました。
ゆづ君にとって新しい種類のジャンプは、いくら練習でうまくいっているといっても試合で安定して成功させるのに、これまで2年は必要だったからです。

ループは昨年投入しましたが、がっつり安定とは言えず、ループがよければサルコーがダメだったり、どちらかが悪いというパターンが多かったように記憶しています。そのため、五輪シーズンでの新技投入については否定的な意見を書いたのです。

先日のNNNドキュメント放送により、マスコミに煽られたから4lzいれたんじゃないの?という意見を目にして、ちょっとマテ、と思い、もう一度考え直してみました。

まず第一に、マスコミに煽られたから4Lz投入したのでは?という意見は、あくまでも私見ですが、全面否定させていただきたい。

あの、頑固で意思の強いゆづ君が、負けん気が強いばっかりにマスコミごときに煽られて調子にのるだか焦るだかして4lz投入?ないない。ぜっっっっったいないね。

だってノートに洗たくのフローわざわざ書く人だよ?w

1分程…?単位作業とか洗剤を入れるとか、、、ここまでするか?しかし洗濯機の前で呆然とするゆづ君とか想像すると笑えるやらかわいいやらw『絶対王者、洗濯物との戦い――未知の洗濯機攻略、洗剤投入のタイミング』なんてなw

洗たく一つに、時間配分して「ここで洗剤投入」とかわざわざ段取りくんじゃう人が、外の人でしかないマスコミなんぞに言われたくらいで、自分の全てをつぎ込み命がけでやってる、ましてや五輪シーズンの演技内容を変えるなんてことありえない。

たしかにゆづ君は今シーズン最初、4Lz投入は考えてないと断言してました。
でも、NNNドキュメントをみたら、8月の段階で4Lz投入を視野に入れていたことがわかります。

 

ただ私もロシア杯で4Lzをいれてきたときは、よくオーサーが許したな、と思ったのです。
オーサーは新しい武器を導入するより、既存の武器の練度を高める方を優先する傾向があるから。で、マスコミに煽られた説を全面否定するなら、他の説をたてねばフェアではなかろうと考えてみました。

私の得た結論はこうです。

『あの4lzは最強の一手でも最善の一手でもなく、それによって他選手がどう動くか、試すための一手だった』

羽生結弦が4lzを跳べる。少なくとも他選手と遜色ないクオリティでプログラムに入れることができる。それは他選手の多くを谷底に突き落とすには充分すぎる情報です。

根拠としては少し弱いですが、試合後のオーサーがインタビューで「ミッションコンプリート」という言葉を使ったことがまず上げられます。

試合には負けたのにミッションコンプリートっておかしくないですか?優勝することが初めから目的ではなかったのなら腑に落ちる言葉です。
参照:icenetwork オーサーインタビュー記事

さらに、あの全試合全力戦闘いつでも勝つ気まっしぐらのゆづ君が、2位なのにさほど悔しそうでもなく、構成表を見て満足そうにニヤニヤしていたことも、あの試合の目的が「4lzを成功させる」だったのであれば、合点がいきますね。

ゆづ君は4Lzを実際に試合で成功させることで、自身の「守ることも捨てることもいつでもできる」という言葉を補強し、自分が今シーズン通してイニシアチブを握っていることをフィギュアスケートに関わる全ての人に証明したワケです。

そしてその後は皆さんご存じの通り、怪我のため試合は全休、でてくる情報は数行書かれた紙ばかりで、マスコミの前で読まれるか、先日のドキュメントのように放送されるか、しかありません。

怪我の回復状況はどうなのか。
どの程度の練習ができているのか
構成の変更はあるのかないのか

な~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んにも、ワカリマセン!ヽ(゚д゚)ノ

これ、かえって状況的にいいんじゃないかと思うのです。

4lzがあるゆづ君とマトモに張り合えそうなのは、ネイサンとショーマに絞られています。

別表:上位選手のジャンプ予定構成と実施内容
※これ作るのにすっっっっごい時間かかった……。でも、おかげでこの後の記事もちょっとラクにできそう…?

(ネイサンはともかくショーマはいれたくねぇなぁ~。でも実際点はでてるから…)
続くのはハビ、ボーヤン、コリヤダ、少し下がってパトリック、というところでしょうか

実際、ショーマはあれだけ「安定感」がウリのはずだったのに、ゆづ君が4lzを降りて以降、ジャンプ構成をころころと変更し、迷走中のように見えます。
(トゥジャンプのフルブレード踏切をなんとかしようとしてるのか?踏み切る力が足りずにジャンプがgdgdになってますね。ですが氷上半回転以上のプレロテ前向き踏切なのは全く変わりません)

ネイサンも、今年はトランジション面や課題の3Aなど、安定感を磨く方向にいくのかと思いきや、ジャンプ偏重に拍車をかけてきました。

今年のネイサンのプログラムは、漕ぐ~跳ぶ~漕ぐ~跳ぶ~の繰り返し(FSな。SPは少しマシ)で、見ていてとてもつまらない。去年の方がまだ見応えあったのにな、と思うほどです。

ゆづ君がトータル330点という世界記録を出した時の構成は、ショート前半で4回転が2本、フリーで3本(前半2後半1)、計5本というものでした。

ライバル選手達はいずれもゆづ君のそのときの構成よりも基礎点の高い4回転を跳び、本数も明らかに多いですが、未だに超えた人は一人もいません。

その状況の中で、記録を持つ当の本人羽生結弦が4Lzもつかえるぞ!となれば……
他の選手はさらに無理な4回転の投入に踏み切るくらいしか、対抗する手段がありません。

結果的にゆづ君は4Lz投入により、ライバル選手達の弱点を補う時間を失わせ、一か八かの賭けにでるしか方法がないところまで追い込むことに成功しました。

ここで再びオタク的セリフ披露。

戦略とは戦争全体の勝敗を決めるための基本的な構想とそれを実現するための技術。
戦術とは局地的な戦場で勝敗を決するための、いわば応用の技術。状況をつくるのが戦略で、状況を利用するのが戦術だよ

戦略=状況を作る
戦術=状況を利用する

ゆづ君の4Lz投入は、現在の状況を作るための戦略の一つだったと考えると、すっごくすっきりするんですよね。

怪我はアクシデントでしかないでしょうが、それすらも情報封鎖という戦術に転換、結果的に戦略を補強し、ライバル達を翻弄している。

さらに、

対等の条件で戦っ­たら、などと仮­定する事自体無意味­だね。5分と5分の­条件を揃えるのが戦­略だ。戦略を無視し­て戦術を論ずるなど­、実際の戦争ではあ­りえない事だ。

自分が「ノーミスしさえすれば」勝てるというのは、戦略レベルですでに負けていると、ゆづ君はとらえたかもしれません。
いろいろな人が、ゆづ君ならルッツなしでも勝てる、サルコーとトウループだけでも勝てるなどと言っていますが、それはあくまでも「ノーミスした場合」であって、裏を返せば「ノーミスしなければ」勝てないということ。

どんなに練習して自信がある状態であっても、失敗するときは失敗する。これは去年、ショートでイヤというほど味わったことでしょう。加えて、去年の世界選手権でハビがどうなったかも考えると、ベースバリューにこだわる意味がわかります。
さらに言うと、ソチ時のパトリックも……。ノーミスすれば彼の勝ちだった。でも、結果はご存じの通り。

だからこそ構成は、ネイサンやショーマと同レベルのベースバリューがとれることを証明しておく必要があったのだろうと思います。

ここで最初に引用した言葉

戦術レベルにおける偶然は、戦略レベルにおける必然の、余光の破片であるにすぎない

ベースバリューを同等に上げて、戦略レベルにおける必然(基礎点は同等)を調えた。あとは、敵がどうでようとも、戦術レベルにおける偶然(ノーミス)の確度をあげて余光の破片を取りに行くだけ。

ゆづ君が目標にしているのは「五輪で圧倒的に勝つ」こと。

五輪2連覇の重さはGPF5連覇と同等と見ていいと思います。既にゆづ君は対価を支払っている。

だから尚更、死に物狂いで五輪の金メダルを刈り取りにくるでしょうねぇ……。

現時点でのゆづ君の状態はわかりません。ロステレ時そのままの構成でくるのか、下げるのか。大方の見方は構成は下げざるを得ないだろう、なのかもしれませんが。

なんたって、羽生結弦ですから!

もう、ほんっっとーーーーーに、フタを開けてみるまでわかりません!

五輪男子の戦いまであと10日程。
一ファンとして、祈り続けます。

ゆづ君 平昌 神演技 金メダル~~~ ってね。

 

※点数計算はフィギュアスケート要素検索さんにて行いました。多謝!